気管虚脱とは

気管は本来、筒状をしています。
しかし、これが潰れて呼吸ができなくなる病気を気管虚脱といいます。

呼吸を止めると気管は筒状に戻ります。呼吸をするとぺたんと潰れます。空気が強く流れると、その流れが引力となり、より強く気管を潰します。

本来、気管は強くて頑丈な軟骨に囲まれているので、いくら強く呼吸をしても(例えば、走ったあとはぁはぁしたり、げほげほ咳をしたとしても)潰れることはありません。
それが、何のきっかけか軟骨が弱くふにゃふにゃになり気管全体がうすっぺらくなってしまうと筒状の形を保てず、空気の流れのままにぺたんこに潰れてしまうのです。
特に、軟骨のない部分(「膜性壁」といいます)から強くつぶれてきます。原因は遺伝的なもの、よく吠えることや首輪などで頸部をひっぱることによる負荷などと言われていますが、まだその原因がよくわかっていません。

それから気管虚脱は、進行性の病気(手を打たないと症状が悪化します)です。
通常は頸部から始まり徐々に胸部へと進行していきます。老齢の小型犬に多いと言われますが実は若齢ですでに始まっていて、病気が進行して症状がでるのが高齢になってからだったということも多いのです。

気管虚脱の症状

気管虚脱になると、息を吸ったときに頸部気管が、吐いたときに胸部気管が潰れます。
症状は軽い咳からはじまることが多く、すぐおさまるので、気づいても気にしない飼い主さんが多いです。
進行してくると呼吸のたびに狭くなった気管から、ぶーぶーがーがーという呼吸音が出ます。「ハンギングコフ」とか、「ガチョウ様の呼吸音」など表現されます。ブタみたいな音がすると言われる飼い主さんも多いです。

重度になると咳で寝られない、苦しくて頭を下げられない(気管が潰れるため頭を起こしていないと呼吸ができない)、最終的には窒息死を起こします。

症状は徐々に悪化するものもありますが、多くはある日突然、起こります。逆にいうと、無症状のまま気管虚脱を隠し持ち、重度に進行してしまっていることも多いです。
咳は興奮時と夜間に増える傾向があります。またリードをひっぱったときに首輪やハーネスで首が圧迫されると咳が出ます。軽くても長く続いている咳があるなら、早めに病院へ行って原因を突き止めてもらってください。

気管虚脱の診断法

ほぼ確実にレントゲンのみで診断できます。もっと細かく正確に診断したい場合、内視鏡や放射線透視を行うこともありますが、麻酔が必要です。重症な気管虚脱の場合、目を覚ますときに呼吸がうまくいかない可能性があるので検査のためだけの麻酔はしない方が、よいです。麻酔を使う検査の場合は、そのまま手術できる環境で行うことを推奨します。

気管虚脱の治療法

潰れた気管を治すには、気管を広げてやればいいのです。というわけで、第一には外科手術です。

現在はPLLP法という、気管の外側に光ファイバーで作った型(プロテーゼ)を縫い付ける方法があります。アトム動物病院(東京都板橋区)の米澤先生が行っている手術です。

重症でも、咳や呼吸困難などの症状がかなり改善されます。私もアトム動物病院で勤務医の経験があり、この方法による治療成績がとても良かったので、この手術をお勧めすることが多いです。手術後は安静のため入院は一週間程度必要になりますが痛みは少ない手術です。(切開はするので念のため痛み止めは使用します)呼吸は術後すぐから改善されることがほとんどで、その後の咳も残りにくいメリットがあります。
最大のデメリットは気管壊死の可能性が1%程度あるということです(術後1週間程度で判定します)。過去の文献には30%壊死するというデータもありますが、2020年現在行われている方法での実績は1%程度です。その他、なんらかの理由で術後1週間内に亡くなってしまうような重大な問題を全て含めると2%弱程度となります。当院の治療成績も同程度です。
止まらない発咳は命にかかわりますし、最終的には窒息の可能性もある気管虚脱ですので、病状の悪化があるのであればデメリットと天秤にかけても手術をお勧めすることが多いです。もちろん高齢だったり他に疾患があり手術自体にリスクが伴うようであれば他の方法を模索することもあります。当院では手術成功の最高齢は16歳で、心疾患やホルモン異常等を抱えながら手術に挑まれた方もいますが、何がその子にとって一番良いのかは病状を見極め、飼い主さんともよく話し合いながら決定していきますので、疑問点は遠慮せず全てお話しくださって大丈夫です。できる限り良い日常生活が送れるようアドバイスさせていただければと思います。

その他には、ステントというメッシュでできた筒を気管内に入れて広げる方法があります。口を開けて気管内にステントを挿入していきます。手術は短時間で終わり、気管の奥までしっかり広げられるというメリットがありますが、この方法は気管の中にステントを入れるので、生体反応で手術後も咳が強く残りやすいというデメリットがあります。

救命という意味では気管切開という方法もあります。頸部気管に穴をあけ、そこから直接呼吸できるようにする手術です。頸部に穴があくため、手術後は非常に感染しやすく投薬はやめられません。常に痰が絡み窒息の危険があるため、数時間置きに痰を取り除いてやらねばなりません。例外はありますが一般的にはリスクが高く、動物にも飼い主にも負担の多い方法なので、喉に問題がある等の気管虚脱以外の窒息性の疾患や、合併、緊急の危険回避などの場合にのみ、施される方法です。

内科的にお薬を使う方法もありますが、それらは対症療法であり、潰れた気管を戻すわけではありません。炎症や感染は症状の悪化要因になるので、それらを止める薬を使います。咳を引き起こす中枢に直接働きかけて、咳を止めるお薬もあります。これらは一時的に症状が収まることもありますが、最終的にまったく効かなくなることも多いです。内服でごまかしながら一生過ごせれば、それでもかまわないのですが、気管虚脱は進行性の病気ですので、現実には症状が再発してしまうことが多いです。内科的なお薬を使う場合は、そのあたりのリスクもご相談しつつ、治療させていただきます。

気管虚脱と似た症状の病気

①逆くしゃみ症候群

②軟口蓋過長症

③ケンネルコフ

④心不全

⑤肺炎

⑥気管支炎

⑦気管炎

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